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木育の種、咲かせた花~第4回 おとの森ができるまで -  2023.05.15 Mon

おとの森を語るには、北海道におけるアカエゾマツの歴史について触れなければならない。
ピアノという楽器には、部品の多くに木材が使われている。その中で、響板という、文字通り音を響かせるための部品に主に用いられてきたのがアカエゾマツという木だ。
北海道遠軽町丸瀬布という地域には、かつて豊富なアカエゾマツの天然資源があった。これこそが、ヤマハ㈱へピアノ部品を供給する北見木材㈱が、丸瀬布に工場を構えた理由であった。ヤマハのピアノから奏でられる音色は、北海道の木材資源から作られていたのだ。ただ、北見木材㈱は今でも響板の製造・供給を行っているが、北海道産のアカエゾマツ天然資源は少なくなっており、今は輸入材の取扱いが主となっている。

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一方、アカエゾマツがトドマツ、カラマツにつぐ第3の造林樹種として、北海道内で造林されるようになったのは、ざっと50年ほど前になる。アカエゾマツは、他の樹種に比べて耐寒性に優れ、動物の食害を受けにくいという利点があるが、成長が進むにつれ、カラマツほどの強度はなく、ヤニやねじれが多いという人工林材の欠点も明らかになっていった。過酷な環境を百年単位で生きてきた天然林材に比べて、人工林材は木材が生産されるようになっても使い道がないのではないか?そんなマイナスイメージが噂されていたのが、今から20年くらい前のことになる。

そんな時、北見市の道有林で、試験的に造林されていた70年生を超えるアカエゾマツ人工林材が、台風被害を受けて倒れた。まだ造林の歴史が浅かったアカエゾマツ人工林材は、材質調査のために研究機関に運ばれることになり、その研究機関と北見木材㈱につながりがあった。それから数年かけて、北見市の森づくりセンター(現在のオホーツク総合振興局東部森林室)、林産試験場(現在の(地独)北海道立総合研究機構林産試験場)、北見木材㈱における人とのつながり、働きかけが紆余曲折あって、北見木材㈱でアカエゾマツ人工林材を使ったピアノ響板を試作してもらえることになった。

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ピアノ響板は、ヤニの穴や節がなく、年輪幅が均一に並んでいる必要があり、丸太から得られる木材のうち、使える部分はごくごく一部という厳しい基準がある。それでもアカエゾマツ人工林材から製造された響板は、ピアノの音響性能に問題なしという結果が得られた。これは、アカエゾマツ人工林を育てても価値がないと落ち込んでいた業界にとって、いい材を育てれば楽器材としての可能性があるという希望になった。

その後、北見木材㈱は「天然林でも人工林でも、北海道の森で、またピアノが製造できる木が育つようお手伝いができたら」と、オホーツク総合振興局、遠軽町と協定を結び、アカエゾマツの森づくりや木育に取り組んでいくこととなった。2021年には、ヤマハ㈱と北海道が包括連携協定を結び、「おとの森」と題した活動を展開。木の文化を次世代へつないでいくことを目指している。
アカエゾマツがピアノになるまでは、ともすると100年を超える年月がかかる。100年後の未来、北海道のアカエゾマツで作られたピアノが音を響かせるには、今種をまく必要がある。かくして、アカエゾマツの小さな苗木たちからなる「おとの森」が誕生した。木の長い寿命からすると、その活動はまだ始まったばかりだ。


◆北海道水産林務部森林計画課 根井三貴

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