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木育の種、咲かせた花〜第8回 木育の本 -  2023.10.15 Sun

2008年に『木育の本』刊行
~数多くの人たちに、木育を理解してもらうために企画・刊行~


 『木育の本』(煙山泰子、西川栄明、北海道新聞社)が刊行されたのは2008年秋。木育という言葉が生まれて4年目のことだった。
 当時、私は木育ファミリー会員になっていたが、漠然としか木育のことを理解していなかった。会員になったのも、取材で知り合った木工デザイナーの煙山泰子さん(当時、木育ファミリー代表)からのお誘いがあり、お付き合いで入会したというのが正直なところだった。『北の木仕事』『北の木と語る』など木に関連する本を上梓していたが、私にとっては、木育の概念を消化しきれていないというモヤモヤ感をずっと抱いていた。

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刊行のきっかけは、
木育関係者が呟いた言葉

 そんな折、札幌で開催された森林・木材関係のイベント会場で、知り合いの道庁水産林務部職員(木育推進プロジェクトチームメンバー)から「西川さん、木育の本を出せませんか…」というようなニュアンスの言葉がぼそっと発せられた。当時、木育について、わかりやすく説明してくれる本は見当たらなかった。道庁や木育ファミリーが発行するパンフレット類はあったが、それを読んでもすんなりと理解できなかった。
特に、子どもたちが「木のプール」(または、「木の砂場」)で遊んでいる写真が、ほとんどの木育を紹介する印刷物に大きく掲載されていたのも気になっていた。「子どもが木の遊具やおもちゃで遊ぶことが木育なのか。それだけではないはず。ほんの一部を切り取った写真によって、木育が誤解されて世の中に伝わっているのではないか」。こういう思いを持ちながら、木育についてモヤモヤしていたのだ。2006年に国がまとめた森林・林業基本計画では、木育を「木材利用に関する教育活動」と位置付けていた。木材利用に絞っている点に、少し違和感を覚えた。
 そこで、本を企画・執筆・編集することによって、木育にしっかり向き合ってみようと考えてみた。懇意にしていた北海道新聞社出版局の編集者に相談したところ、「北海道発祥の木育を紹介する本なら、社としても出版する意義がある」との返事をもらった。そして、出版企画が通り刊行が決まった。木工デザイナーで木育ファミリー代表の煙山泰子さんと西川の共著で進めていくことになる。

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具体的に木育はどういうものなのか。
わかりやすく解き明かす本を目ざした

 西川が作成した出版企画書の内容を一部紹介しておこう。本のベースになる考え方は「北海道生まれの新しい言葉『木育』をわかりやすく紹介する本」とした。企画の背景について、2004年の木育推進プロジェクトで討議されてまとめられた木育の定義*を踏まえて、以下のように記されている。
 「定義された文章は、理念として何となくわかった気になる。その通りだと思う。ただし、具体的にはどのようなものなのか。この疑問をわかりやすく解き明かした本を企画した。林業や環境教育などに携わっている人たちだけではなく、小学生から高齢者まで広く一般の方々に木育の考え方を理解してもらい、実践してもらえる本とする。写真やイラストを使ってビジュアルに展開していく」
 本の全体を通してのトーンはやわらかい雰囲気にして、木育は難しいものではなく、とっつきやすいものなのだということを示すように心掛けた。大学の先生方が執筆する木育の本は、どうしても堅苦しくなりがちなので。
 具体的な内容については、8つの項目を立て展開した。例えば、木育宣言(自分にとっての木育とは何かなどを表明する)の発表。共著者だけではなく、木育に関わっている方々にも執筆していただいた。本の中で多くのページを割いたのが、全国各地の木育の事例(ほとんどが、木育の言葉が生まれる以前から行われてきた活動)紹介。その他にも、共著者による木育をテーマにした対談、煙山さんによる「きょうから木育365のヒント」などを掲載した。

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発売後、木育関係者以外からも大きな反響が

 発売後、林業・木材関係者や教育関係者などをはじめ、木育関係者以外にも大きな反響を呼んだ。全国紙を含めた新聞やテレビでの紹介も多々あり、微力ながらも木育の普及につながっていったと思われる。北海道新聞読書ページ(2008年10月26日付け)の書評(中舘寛隆・北海道読書新聞社編集長)でも紹介された。「本書はこの木育を実践するために必要な情報をまとめた、初の入門書と言える一冊である。(中略)本書では木と親しみ、木に遊び、木から学ぶ活動など、さまざまな実践例の紹介を通し、その大きな可能性が示されている。」(一部抜粋)。

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 刊行して2年後の2010年、木育マイスター研修がスタートする。2023年度の14期生で新たに約50名が認定され、総勢約370名の木育マイスターが誕生している。現在、全道各地で木育活動が盛んに行われているが、木育の黎明期といえる時代に出版された『木育の本』は、木育の入門書的役割を果たしたといえるだろう。



西川栄明(編集者、木育マイスター育成研修講師)

*木育の定義
「木育とは、子どもをはじめとするすべての人が『木とふれあい、木に学び、木と生きる』取り組みです。それは、子どものころから木を身近に使っていくことを通じて、人と、木や森との関わりを主体的に考えられる豊かな心を育むことです」

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