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「辻井先生」のこと -  2020.06.16 Tue

KEMさんの木育生活06

みんなから「辻井先生」と親しみを込めて呼ばれていたのは、植物生態学者の辻井達一さんです。
辻井先生は、1931年東京生まれ。北海道大学農学部の学生時代から湿原の調査に取り組み、卒業後は農学部教授、および附属植物園長を務められました。また北海道環境財団理事長、環境省ラムサール条約湿地検討会座長など、北海道の森林や環境系の世界ではその見識を高く評価され、みんなにとって文字通り「先生」と呼ばれる存在でした。年齢を重ねても好奇心旺盛で、世界中を旅しては新しい情報を楽しく語ってくださいました。

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私が先生と最初にお会いしたのは40年ほど前、木のタマゴを作り始めていち早く買い求めに来てくださった時のことです。
そして、2004年の木育推進プロジェクトではリーダー(座長)として、絶妙な手綱さばきでメンバーをまとめてくださいました。ちなみにサブ・リーダーは、(現)水産林務部森林環境局長の濱田智子さんでした。
プロジェクトは半年の間に「木育」という新しい言葉の概念を生み出すもので、毎回の会議や視察旅行、メーリング・リスト等を通して熱のこもった濃い時間を過ごしました。
それは辻井リーダーにとっても、きっとワクワクする場だったのではないでしょうか。

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辻井先生の著書には二冊の樹木ガイドがあります。さまざまな樹木の特徴や性質をイラスト付きで一般の人が読んでも樹木に興味がわくような解説が特徴です。
『日本の樹木』 都市化社会の生態誌 中公新書1995
『続日本の樹木』 山の木、里の木、都会の木 中公新書2006
一冊目は木育誕生前の出版で、続編は誕生後のものです。その序文を比べると、辻井先生の中にも木育の存在で変化があったようです。

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『日本の樹木』序文より引用
― 日本は樹の種類の多いことで世界でも有数のところだ。そしてそれらの樹は十分な降水と温度条件によってよく育つ。そこで北から南まで、巨大な樹があり、立派な森林が成立した。里には鎮守の森があり、海辺にも魚付林が残された。それらは懐かしい風景でもあり、環境や生活についての優れた知恵でもあった。
けれどもそうした樹や林や森は、このところ急速に姿を消しつつある。森林の減少はもちろん今始まったことではなくて、近代になってそれが甚だしくなったということであろうし、樹木にもそれぞれの寿命があるから巨木が消えていくのも仕方がないことかもしれない。(中略)
ただ、いささかながら各地で樹を植えよう、森林を回復させようとする動きは出てきたし、プラスティック製品に飽きた、として樹の良さが見直されるようになってもきた。まんざら、悲観的な材料ばかりでもなさそうなのである。―

『続日本の樹木』序文より引用
― 『日本の樹木』(中公新書一二三八)が出てから十年余りが経った。先の版で樹種が北に偏っていることを断っておいたこともあり、この続編ではそれを修正することを試みた。しかし、この版での特徴としたのはそれだけではない。この十年の間に、ちょっと大げさに言えば木と木材への回帰が大きくなっているのが見られる。(中略)
北海道では「木育」という言葉が使われるようになっている。これは「食育」つまり食材を、あるいは食そのものを大切にして、それを通じて健康な生活を、というのに準じて、木を使って、木の感触に慣らすことから始めて、より健康な体と心を、というものだ。かつては今よりももっとさまざまなものが木でつくられ、私たちは木と木材に囲まれて生活していたのだから。
こういう傾向をみると、前著の序文で「必ずしも悲観的な材料ばかりではなさそうだ」と書いたのがまんざら希望的観測でもなかったらしいのはめでたい。―

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このように並べてみると辻井先生にとっても木育の誕生が大きな意味を持ち、先生の示唆に富んだアドバイスがあったからこそ北海道に現在の木育があることを再認識させられます。木育ファミリーでも、設立時より顧問としてお世話になりました。
続編の序文の中で「まんざら希望的観測でもなかったらしいのはめでたい。」という言葉遣いに、先生のちょっぴりお茶目な側面が感じられます。各分野で親交の深かったみなさんは今それぞれに、辻井先生のユーモアあふれる素敵なエピソードを懐かしく思い出しているのではないでしょうか。


◆KEM工房/木育ファミリー顧問 煙山 泰子

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