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お話の木(その2)木の葉のたより -  2020.11.16 Mon

札幌の街に初雪が舞った。めっきり寒くなって木々は木の葉を落とし、足元には大量の落ち葉が積もった。こうなると私的には要注意だ。地面の形状が分からないうえに濡れていると滑るので、転ぶ危険性が増す。まあ、そうでなくても年中転んでいるので余りかわらないか? お前、ほんとにヤバいよ。夫が意地悪く笑う。
とはいえ、落ち葉の上を歩くのは嫌いではない。まだ、落ち葉が赤や黄色に染まっている時にはふわふわ。(ちなみに「もみじ」の語源は「揉みいず」で、あの色を揉み染めできると考えていた為であろうと、ものの本に書いてあった)乾いて茶色になると踏み心地は、ガサガサ、パリパリとなり、何とも楽しい。

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踏み心地を堪能しているうちにふと、「木の葉のしらせ」という言葉が頭に浮かんだ。
どこで聞いたっけ? しらせ? たより? 
「葉書」が木の葉がもとになっているのはわかる。そういえば郵便局の木は「多羅葉の木」だそうだ。タラヨウ。モチノキ科の常緑樹。葉は肉厚で光沢があり、長楕円形で大きい。葉の裏を引っかくと黒い跡がくっきりと残り、字や絵がかける。古来、手紙やお経を書き付けたそうで、お寺にもゆかりの深い木だそうだ。南の地に旅した折、初めて実物に出会ったが、見せてもらったその葉には、なるほど、くっきりと文字が浮かび上がっていた。しかし、私が引っ掛かっていたのは、もっと昔の記憶、子供の頃のはずだ。葉ももっと身近で、ありふれた……。

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そうだ! 大好きなメアリー・ポピンズのお話の中で出会ったんだ。メアリー・ポピンズはディズニーの実写版映画で有名だが、トラヴァースの原作では、あんな垢抜けた美人ではない。いかにもイギリスの田舎女性らしい赤ら顔のギスギスした感じの、イケずな自惚れ屋だ。それでも彼女はとびきり魅力的で、世界中の子供たちの心をぎゅっとつかんではなさない。
『ハロウィーン』のお話の中で、メアリー・ポピンズに公園に連れて行かれた子供たちは、風に吹き飛ばされて手の中に飛び込んできた、文字の書かれたカエデの木の葉を受け取る。
「木の葉をおとり、しらせの手紙! 」
老婦人が子供のころをなつかしんで言った言葉が、重要なキーワードとなり、素敵なストーリーが展開していく。イギリスは気候や植生が北海道とどこか似通っている。親しみやすい光景は、子供だった私を容易にお話の世界に連れて行ってくれた。同じような落ち葉の季節、強風のなかでメアリー・ポピンズの姿をさがしたことが、幾度あったろう。

公園の落ち葉にまつわる、ささやかなファンタジーを私も一つだけ持っている。ある年の落ち葉の季節のことだ。散歩中、近所の公園を通りかかった時、道路工事をしていた作業服姿の若い工員が公園脇の溝にまたがるようにしゃがみ込んで、一枚のオオバボダイジュの木の葉を拾い上げるのを見た。彼はていねいにしわを伸ばし、手の中で広げると、木の葉をじっと、ずいぶん長いこと見つめていた。まるでその中になにかを読み取ってでもいるかのように。私は彼がふるさとからの手紙を受け取ったのかも知れないと想像してみた。そこにはどんな慕わしい言葉が綴られていただろうか。今でもはっきりと、丸めた背中と穏やかな横顔を思い出すことができる。

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もし、降り落ちる木の葉のすべてに文字が書かれているとしたら。活字中毒の私は夢想する。どんなにか楽しいに違いない。できればそれはお話がいい。一人ひとりの心にある楽しいお話。メアリー・ポピンズが言うように、だれもが自分だけの、おとぎの国をもっているのだから。 
『公園のメアリー・ポピンズ』PⅬトラヴァース



◆木育マイスター/ようてい木育倶楽部 齊藤 香里

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