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アンリー・ルソーの夢とサスティナブルな森 -  2021.04.14 Wed

今回のエッセイは、一般財団法人 北海道建築指導センターの季刊誌「センターレポート」に連載している私のコラム「アートな視点」からです。毎回、一点のアート作品と今日的話題を結び付けて書いています。2016年秋号のテーマは「夢みる」、建築関係の人に木育のことを広く知って欲しくて紹介しました。
・センターレボートURL https://www.hokkaido-ksc.or.jp/index.php?id=98

ルソー「夢」s
アンリー・ルソー「夢」1910年 ニューヨーク近代美術館

満月の薄明かりの下で、女は裸で横たわり、ハスの花の咲く青々としたジャングルの動物たちをじっと見つめている。アンリー・ルソー最晩年の傑作「夢」である。森と木についてアートな視点から眺めたくなりこの一枚を選んでみた。彼の作品には熱帯の密林を舞台にしたものが多いが、じつは南国など一度も訪れたことはなく、想像力で描いたもの。その森は幻想的で見るたびに新鮮だ。50歳代で画家となったルソーは、パリの画壇では税関吏あがりの日曜画家と相手にされなかった。この不思議な絵は、原田マハの小説「楽園のカンヴァス」の中でさらに謎めいた奥行きが与えられている。

森とアートの関係を考えるきっかけは、今夏、札幌芸術の森30周年記念「フランスの風景 樹をめぐる物語」を見たからだ。その案内に、「樹木はいつの時代も人に寄り添い、その場で動かずに四季の移ろいを伝え、時の流れを共に見続ける人間の伴侶だった」と書かれていた。バルビゾン派から新印象派まで、画家たちが描いた樹木を通して、美しい森を訪ねたような展覧会であった。森がいかに多くの名画を生んできたかを実感した。でもルソーのように超現実的な森を描く画家は見られなかった。
太古より人間は森に住み、森の恵みを糧に暮らしていた。のちに森を離れて文明を築くようになってからも、人間は森という故郷に「楽園」の思い出を重ね、ノスタルジアを抱きつづけてきた。言うまでもなく森や木は人間の生存にとって、欠くことのできない存在である。縄文文明を1万年以上も支え続けたのも森の恵みであった。

「木育」という北海道発の活動がある。「木とふれあい、木に学び、木と生きる」という理念で、森や木と共生する取り組みである。十年ほど前に始まったこの「木育」活動は、林野庁をはじめ今や全国で展開されつつある。木育は、五感とひびきあう感性、共感できる心、地域の個性を生かした木の文化、人と自然が共存できる社会を目指す。そして木育は「心の森づくり」だという。
森林破壊や地球温暖化など環境問題は、科学的なアプローチや研究が必要だ。が、未来への持続可能な夢がなければ、それを実現する社会は生まれないだろう。昔は人の心の糧として森の妖精や魔物や寓話があり、それが森への夢や畏敬の念につながっていた。自然を科学する前に、森の力と豊かさを五感で感じ、一本の木を大切に守るために、人が自然の一部として何ができるか考えたい。
「森と生きる夢をみよう、想像力豊かで持続可能な森の夢をみよう」。
ルソー作「夢」は、そんな夢の描き方を教えてくれる一枚だ。



◆建築家 下村 憲一

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